エッセイ

【口の立つやつが勝つってことでいいのか】あらすじ要約・ネタバレ・考察・読書感想文・レビュー(著: 頭木弘樹)

ヨムネコ

「言葉にできないと負けてしまう」という世の中に、どこか息苦しさを感じたことはありませんか?

SNSで「伝える力」が重視され、理路整然と話せることが美徳とされる今の時代です。でも本当は、大切な思いほど言葉にならないものではないでしょうか 。この本は、そんな言葉にできない思いをそっとすくい上げてくれるエッセイ集です 。著者の頭木弘樹さんは、20歳のときに難病を発症し、10年以上の闘病生活を送った経験を持っています 。その経験から生まれた言葉は、小さな声でささやきかけるように心に響いてきます 。2024年2月に青土社から刊行されたこの本は、SNSで話題となり重版を重ねています 。

どんな本?『口の立つやつが勝つってことでいいのか』の基本情報

頭木弘樹さんの初めてのエッセイ集として注目を集めているこの本は、これまでの著作とは少し違った色合いを持っています 。

1. この本が生まれた背景

頭木さんは幼い頃から「口の立つやつ」でした 。教室でケンカになったとき、先生に「暴力はダメ。話し合いで」と言われると、自分に非があっても言葉で相手を打ち負かすことができたそうです 。でもそのことに、ずっと違和感を抱いていました 。

「これじゃ腕力勝負と変わらない」――そう感じていたのです 。言葉で勝つことと、力で勝つことに、本質的な違いはあるのでしょうか。その疑問が、この本のタイトルにつながっています。

20歳で難病にかかってから、頭木さんは「言葉にできない痛み」と向き合うことになりました 。これまでにない痛みを医師に正確に伝えなければならないという、現実的かつ文学的な問題に直面したのです 。そこで気づいたのは、言葉にできないことこそが本当なのだということでした 。

2. SNSで話題になり重版を重ねる理由

この本が多くの人の心に届いているのは、誰もが感じている「言葉にできないもどかしさ」を代弁しているからかもしれません 。「言葉にできない」ことに何度も挫折し、そんな自分に落胆してばかりの人にとって、この本は救いの書になっています 。

読み進めるうちに、世界の見え方が変わってくるのです 。それまで当たり前だと思っていた価値観が、実はとても偏ったものだったと気づかされます。「理路整然と話せるほうがいい」「能力のある人がちゃんと評価されるべき」――そんな思い込みに揺さぶりをかけてくるのです 。

本書に書かれている言葉は、どれも小さな声で読み上げたくなるようなものばかりです 。静かでありながらも明瞭に響き、心の奥深くまで届いてきます 。

3. エッセイ集という形式の魅力

頭木さんといえば、カフカや山田太一の作品を紹介する文学紹介者として知られています 。これまでの本は、文学作品を通して何かを伝えるスタイルでした 。でも今回は、著者自身の経験や思いを直接語る純粋なエッセイ集です 。

だからこそ、一つひとつのエピソードが胸に迫ってきます。難病になった経験、宮古島で出会った人々、子どもの頃の記憶――それらが丁寧に綴られています。文学作品を介さずに語られる言葉には、また別の温度があるのです。

エッセイという形式だからこそ、著者の「ためらい」が伝わってきます 。一つの価値観で断定せず、いろいろな可能性を残しながら語りかけてくる文章は、読む人に考える余白を与えてくれます。

項目内容
書名口の立つやつが勝つってことでいいのか
著者頭木弘樹
出版社青土社
発売日2024年2月
形態エッセイ集

著者・頭木弘樹はどんな人?

文学紹介者という肩書きを持つ頭木弘樹さんですが、その人生は決して平坦なものではありませんでした 。

1. 20歳で難病を発症した経験

大学3年生のとき、頭木さんは潰瘍性大腸炎という難病にかかりました 。それから10年以上にわたる闘病生活が始まります 。この病気は、激しい痛みを伴うものでした 。

医師に症状を伝えるためには、これまで経験したことのない痛みを言葉で表現しなければなりません 。でも、本当の痛みは言葉にできないのです。そのジレンマの中で、頭木さんは「言葉にできないこと」の本質を見つめることになりました 。

闘病中、頭木さんを救ったのは文学でした 。絶望の淵に立たされたとき、文学作品が寄り添ってくれたのです。その経験が、後の活動につながっていきます。

2. 『絶望名人カフカの人生論』で10万部のヒット

頭木さんの名前を一躍有名にしたのが、『絶望名人カフカの人生論』です。この本は10万部を超えるヒットとなりました 。カフカのネガティブな言葉を集めた本ですが、それが多くの人の共感を呼んだのです。

「絶望名人」という言葉の選び方からも、頭木さんの感性がうかがえます。前向きな言葉ばかりが良いわけではありません。むしろ絶望を肯定することで、救われる人がいるのです。

カフカという作家を通して、頭木さんは「うまくいかない人生」を肯定する言葉を届けてきました。それは、自身の経験から生まれた視点だったのでしょう。

3. 文学紹介者としての活動

現在、頭木さんは文学紹介者という肩書きで活動しています 。本の執筆だけでなく、ラジオにも出演されています 。文学作品の魅力を、独自の視点で伝えているのです。

ただ作品を紹介するのではなく、そこに自分の経験や思いを重ねていく語り方が特徴的です。文学と人生がつながっていく瞬間を、読者に見せてくれます。

難病を経験したからこそ見えてくる文学の意味があります。頭木さんの紹介する作品には、いつも「生きることのしんどさ」に寄り添う視点があるのです。

4. 主な著書と作品の傾向

『絶望名人カフカの人生論』以外にも、頭木さんはいくつかの著作を出しています 。どの本にも共通しているのは、弱さや不器用さを肯定する姿勢です。

「うまくいかない人生」を描いた作品に光を当て、そこから生きるヒントを見出していく――それが頭木さんの作品の傾向と言えるでしょう。世の中で「ダメ」とされるものに価値を見出す視点は、多くの読者に勇気を与えています。

こんな人におすすめ!読んでほしい人

この本は、特定の誰かに向けて書かれたものではありません。でも、きっと心に響く人がいるはずです 。

1. うまく言葉にできないと感じている人

自分の気持ちをうまく言葉にできなくて、いつも損をしていると感じていませんか 。会議で意見を言えなかったり、大切な人に思いを伝えられなかったり。そんな経験がある人にこそ、この本を読んでほしいのです。

「言葉にできない」ことは、恥ずかしいことではありません 。むしろ、本当に大切なことは言葉にできないものなのです 。この本を読むと、そのことが腑に落ちてきます。

言葉にできる人が偉いわけではない――そう思えるだけで、少し楽になれるかもしれません。

2. 生きづらさを抱えている人

世の中の価値観についていけないと感じることはありませんか。「こうあるべき」という型にはまらない自分を責めてしまう人に、この本は優しく語りかけてくれます 。

能力で評価される社会、効率が重視される世界――そこからこぼれ落ちてしまう人がいます。でもそれは、その人が劣っているからではないのです 。一つの価値観で人を測ることの危うさを、この本は教えてくれます 。

生きづらさを感じているのは、あなたのせいではありません。むしろ、今の社会の在り方に問題があるのかもしれないのです。

3. 当たり前の価値観に違和感がある人

「理路整然と話せるほうがいい」「能力がある人が評価されるべき」――そんな当たり前とされる価値観に、ふと疑問を感じたことがある人 。その違和感は正しいのです。

頭木さんは、世の中の「当たり前」を丁寧にひっくり返していきます 。弱い立場や光の当たらない存在に目を向け、別の見方を提示してくれるのです。自分の感じていた違和感が間違っていなかったと気づけるはずです。

世の中の多数派が正しいとは限りません。少数派の声にも耳を傾ける必要があります。

4. こんな本が好きな人にも合うはず

カフカの作品が好きな人や、山田太一のドラマに惹かれる人には特におすすめです 。人間の弱さや不器用さを描いた作品に共感できる人なら、この本の世界観もきっと気に入るでしょう。

また、内田樹さんや鷲田清一さんなど、哲学的な視点で社会を語るエッセイが好きな人にも合うと思います。頭木さんの文章にも、日常の出来事から本質を見抜く洞察力があるからです。

静かに語りかけてくる文章が好きな人、一つ一つの言葉を噛みしめるように読みたい人にもぴったりです 。

本の主な内容(ネタバレあり)

この本は6つの章で構成されています。それぞれの章には問いかけがあり、読者に考えることを促してきます 。

1. 言葉にできない思いがありますか?

巻頭のエッセイが、そのまま本のタイトルになっています 。頭木さんは子どもの頃、口が立つ方でした 。ケンカになっても、言葉で相手を打ち負かすことができたのです 。

でも、それに違和感を抱いていました 。思わず出てしまった言葉が本心でないこともあるのに、言葉にした途端にその言葉だけが力を持ってしまうからです 。言葉にできない相手の思いは、どこへ行ってしまうのでしょうか。

難病になって、頭木さんは「言葉にできない痛み」を経験します 。そこで気づいたのは、日常においても言葉では伝えられないものが大半だということでした 。思いをうまく言葉にできないほうが、むしろ当然なのだと 。

興味深いのは、「お互いの好きな理由を明白に答えられたカップルほど別れる確率が高い」という実験結果の紹介です 。本当に大切なものは、言葉にできないのかもしれません。

2. 世の中こんなものとあきらめられますか?

世の中の理不尽さに対して、どう向き合うか。この章では、簡単に諦めない姿勢の大切さが語られています。

「世の中こんなもの」と割り切ってしまえば楽かもしれません。でも、その諦めが社会をより良くすることを妨げているのではないでしょうか。小さな違和感を大切にすることが、変化の第一歩になるのです。

頭木さんは、自分の経験から「諦めない」ことの意味を問いかけてきます。難病になったとき、医師から「一生治らない」と言われました。でも文学と出会うことで、別の生き方を見つけたのです。

3. 思いがけないことは好きですか?

予定通りに物事が進むことが良いとされる社会です。でも、思いがけないことの中にこそ、人生の豊かさがあるのではないでしょうか。

宮古島で出会ったMさんのエピソードが登場するのは、おそらくこの章です 。Mさんは理路整然と話せない人でした 。何時間も話を聞いているのに、何を頼みたいのかよくわからないのです 。

でもMさんの話は面白くて、何時間聞いても飽きませんでした 。そして頭木さんは気づきます。理路整然と話せることだけが良いのではないと 。

4. 別の道を選んだことがありますか?

人生には、いろいろな選択肢があります。でも私たちは、一つの道しか選べません。選ばなかった道は、どうなっていたのでしょうか。

頭木さんは、「別の物語を持っておく」ことの大切さを語ります 。一つの価値観に基づく物語の中を生きていると、うまくいかなくなったときにとてもつらくなるからです 。

難病になったことは、頭木さんにとって「別の道」への入り口でした。予定していた人生とは違う道を歩むことになったけれど、そこで文学と出会い、今の仕事につながったのです。

5. あなただけの生きにくさがありますか?

人にはそれぞれ事情があります 。でも、相手の事情を想像することは難しいものです 。

「自分だったら決してこういうことはしない」ということを他人がしていると、とても腹が立ちます 。でもそのとき、「相手には特別な事情があるかもしれない」ということには、なかなか思い至らないのです 。

想像力を持つことの大切さが、この章では語られているのでしょう。誰もが何かしらの生きにくさを抱えています。それを理解し合える社会であってほしいという願いが込められています。

6. 現実がすべてですか?

現実だけが真実なのでしょうか。文学や物語には、現実とは違う真実があります。

頭木さんにとって、文学は救いでした 。現実がどれほどつらくても、物語の中に逃げ込むことができました。それは逃避ではなく、生きるための必要な時間だったのです。

現実がすべてだと思ってしまうと、今の状況から抜け出せなくなります。でも別の世界があると知っていれば、希望を持ち続けることができるのです。

心に残ったエピソード:私の読書感想

この本には、いくつも印象的なエピソードが登場します。どれも頭木さんの実体験に基づいたもので、だからこそ心に響いてくるのです。

1. 「口の立つやつが勝つ」ことへの違和感

子どもの頃、頭木さんは口が立つ方でした 。ケンカで先生に「話し合いで解決しなさい」と言われると、自分に非があっても言葉で相手を打ち負かせたのです 。

でも勝ちながら、ずっと違和感を抱いていました 。「これじゃ腕力勝負と変わらない」と感じていたそうです 。この感覚は、とても大切なものだと思います。

言葉の暴力と身体の暴力は、本質的に同じなのではないでしょうか。力で相手を屈服させる点では変わりません。でも社会は、言葉で勝つことを正当化してしまいます。

このエピソードは、本全体のテーマを象徴しています。口が立つことが必ずしも良いわけではないという気づきが、この本の出発点になっているのです。

2. スープたっぷりの会話をするMさんの話

宮古島で知り合ったMさんのエピソードは、この本の中でも特に印象的です 。Mさんは魅力的な人で、周りに自然と人が集まってきました 。でも理路整然と話せない人だったのです 。

あるとき頼みごとがあると呼び出されて、何時間も説明を聞いたのですが、何を頼みたいのかよくわかりませんでした 。いっこうに要領を得ない説明で、困ってしまったそうです 。

でもそこで頭木さんは考えます。「理路整然と話せるほうがいいのか?」と 。言語化できるというのは、箸でつまめるものだけをつまんでいるようなものではないか 。Mさんの話は「スープたっぷり」で、箸ではつまめないけれど、そこにこそ大切なものがあるのではないか 。

このエピソードには、頭木さんの優しさが表れています。人の欠点と思われるものの中に、実は魅力があるかもしれないと考える姿勢です。

3. 難病になって初めてわかったこと

20歳で潰瘍性大腸炎という難病にかかったとき、頭木さんはこれまでにない痛みを経験しました 。その痛みを医師に正確に伝えなければならないという、現実的かつ文学的な問題に直面したのです 。

痛みは言葉にできませんでした。どんな言葉を使っても、実際の痛みとは違うものになってしまいます。そこで気づいたのは、日常においても言葉では伝えられないものが大半だということでした 。

私たちは普段、言葉で何でも伝えられると思っています。でも実は、ほとんどのことは言葉にできないのです。言葉にできることだけが真実ではありません。

この経験が、頭木さんの視点を大きく変えたのでしょう。言葉にできないことの価値を、身をもって知ったのです。

4. 能力で人を判断することへの「ためらい」

女性差別を描く映画について、頭木さんは疑問を投げかけます 。よくあるのは「男性以上に能力が高い女性が、差別ゆえに評価されない」という設定で、主人公が正当な評価を勝ち取る展開です 。

でも頭木さんは問います。「能力がある人がちゃんと評価されれば、それでいいのか」と 。能力で人を判断することにも「ためらい」が必要ではないかと 。

顔のよしあしで人を評価することには、多くの人が「ためらい」を感じるでしょう 。同じように能力についても「ためらい」がほしい、と頭木さんは言います 。「ためらい」のなさは本当に危険だと 。

この指摘は鋭いものです。差別をなくそうとする運動が、結局は能力主義を強化してしまうことがあります。もっと根本的な問い直しが必要なのです。

5. 「死んだほうがまし」な人生をどう生きるか

難病で苦しんでいたとき、頭木さんは「死んだほうがまし」と思ったことがあったでしょう。でも生き続けて、文学と出会い、今こうして本を書いています。

「死んだほうがまし」な状況でも、人は生きていけるのです。そこに別の価値を見出すことができれば。文学がそうであったように、何かが救いになることがあります。

簡単に「生きる価値がある」とは言いません。むしろ「死んだほうがまし」な状況を認めたうえで、それでも生きる方法を探っていくのです。この正直さが、頭木さんの文章の強みだと思います。

読書感想文を書くときのヒント

この本を読んで読書感想文を書く場合、どんなことを意識すればいいでしょうか。いくつかヒントを挙げてみます。

1. 自分の経験と重ねて書いてみる

頭木さんのエピソードを読んで、自分の経験を思い出すことがあるはずです。言葉にできなくて悔しかった経験、理路整然と話せなくて損をした経験。

そうした自分の体験と本の内容を重ねて書くと、説得力のある感想文になります。ただ本の要約をするのではなく、自分の人生とつなげることが大切です。

「私にもMさんのような友人がいる」「私も口が立つ人に負けた経験がある」――そんな風に、自分の物語として書いてみてください。

2. 印象に残ったエピソードを選ぶ

この本にはたくさんのエピソードが登場します。すべてに触れる必要はありません。自分が一番心を動かされたエピソードを一つ選んで、深く掘り下げてみましょう。

なぜそのエピソードが印象に残ったのか。自分の何に響いたのか。それを考えることが、読書感想文の核になります。

Mさんの話でもいいし、難病の話でもいい。能力主義への疑問でもいいでしょう。自分の心が動いたところを大切にしてください。

3. 見出しの問いかけに答えてみる

各章の見出しは問いかけの形になっています。「言葉にできない思いがありますか?」「別の道を選んだことがありますか?」――こうした問いに、自分なりに答えてみるのも一つの方法です。

「私には言葉にできない思いがあります。それは…」という風に書き始めると、自然と自分の考えが深まっていきます。問いかけは、読者に考えることを促してくれるのです。

頭木さんの答えと自分の答えが違っていても構いません。むしろ違いがあるほうが、面白い感想文になるでしょう。

4. 書く前と書いた後で変わったことを書く

この本を読む前と読んだ後で、何か変わったことはありませんか。世界の見え方が少し変わったかもしれません 。

「これまでは理路整然と話せることが良いと思っていたけれど、この本を読んで考えが変わった」――そんな変化を書くと、読書の意味が伝わります。

本は、読者を変える力を持っています。どんな風に変わったか、あるいは変わらなかったか。それを正直に書くことが、良い読書感想文につながるのです。

この本が伝えたいこと:テーマとメッセージ

頭木さんがこの本を通して伝えたかったことは何でしょうか。いくつかのテーマが浮かび上がってきます。

1. 言葉にできないものこそ大切

一番大きなテーマは、「言葉にできないこと」の価値です 。私たちの社会は、言葉で伝えることを重視しすぎているのではないでしょうか。

SNSで「伝える力」が求められ、プレゼンテーション能力が評価される時代です。でも本当に大切なものは、言葉にできないのです 。好きな理由を明白に答えられるカップルほど別れやすいという実験結果が、それを示しています 。

言葉にできないことを恥じる必要はありません。むしろ、言葉にできないほうが本当なのだと、この本は教えてくれます 。

2. 弱い立場にこそ物語がある

頭木さんは、弱い立場や光の当たらない存在に目を向けます 。理路整然と話せない人、能力で評価されない人、生きにくさを抱えている人。

そうした人たちにこそ、語られるべき物語があります。勝者の物語ばかりが語られる社会では、多くの人が置き去りにされてしまいます。

「不器用さ」の持つ魅力について、ある読者はこう書いています 。それは、本来語り尽くせないものをどうにかして語ろうとする生真面目な姿勢のことだと。真摯さや誠実さが滲み出たものだと。弱さの中にある美しさを、頭木さんは見つめているのです。

3. 一つの価値観で判断する危うさ

能力で人を判断することへの「ためらい」が必要だと、頭木さんは言います 。一つの価値観だけで人を評価することは、とても危険なのです 。

「ためらい」のなさは本当に危険だと、頭木さんは繰り返します 。断定せず、いろいろな可能性を残しておくこと。それが、多様性を尊重するということではないでしょうか。

一つの価値観に基づく物語の中を生きていると、うまくいかなくなったときにとてもつらくなります 。だから別の物語を持っておくことが大切なのです 。

4. 別の物語を持っておく大切さ

現実だけが真実ではありません。文学や物語の中にも、真実があります。頭木さんにとって、文学は救いでした 。

別の物語を持っておくことで、人は困難を乗り越えられます。今の状況がすべてではないと思えるからです。逃げ道があると知っているだけで、人は強くなれるのです。

一つの物語に縛られないこと。それが、この本が伝えたい大切なメッセージの一つでしょう。

今の時代だからこそ読む意味がある

この本は、まさに今の時代に必要なメッセージを発しています。現代社会が抱える問題と深く結びついているのです。

1. SNSで「伝える力」が重視される社会

SNSの時代、誰もが発信者になれます。でもそれは同時に、「伝える力」を持たない人が取り残される社会でもあります。

言葉で自分を表現できる人だけが注目を集め、影響力を持つ。そんな状況に対して、この本は異議を唱えています。言葉にできないことにも価値があるのだと。

SNSで「バズる」ことが評価される風潮があります。でもバズるためには、言葉を削ぎ落として、わかりやすくする必要があります。そこでこぼれ落ちてしまうものに、頭木さんは注目しているのです。

2. 能力主義が生む生きづらさ

能力で評価される社会は、一見公平に見えます。でも実は、多くの人を苦しめているのではないでしょうか 。

能力がある人が評価されることは良いことのように思えます。でもそれは、能力がない人を切り捨てることにもつながります 。頭木さんが言うように、能力で人を判断することにも「ためらい」が必要なのです 。

短期で成果を求める考え方は、株主利益至上主義が生み出したものです 。いかにビジネスで勝ち抜くかが基準になっています 。でも人間関係は、協力と相互扶助が基準でなければうまくいきません 。

3. 多様性という言葉の陰で切り捨てられるもの

「多様性を尊重しよう」という言葉をよく耳にします。でも実際には、一つの価値観で判断されることが多いのではないでしょうか。

能力がある人、理路整然と話せる人、効率的に動ける人――そうした人たちが評価される構造は変わっていません。多様性という言葉の陰で、切り捨てられているものがあるのです。

本当の多様性とは何か。この本を読むと、その問いに向き合わざるを得なくなります。

4. 言葉の暴力と身体の暴力は同じかもしれない

「暴力はダメ。話し合いで」――そう教えられて育ちます 。でも頭木さんは、言葉で相手を打ち負かすことも暴力ではないかと感じていました 。

言葉の暴力は、身体の暴力より軽く見られがちです。でも受ける側の痛みは、同じくらい深いかもしれません。「口の立つやつが勝つ」という状況は、腕力で勝つのと本質的に変わらないのです 。

SNS上での誹謗中傷が問題になる今、この視点は重要です。言葉にも暴力性があることを、私たちは自覚する必要があります。

なぜこの本を読んだほうがいいのか

最後に、この本を読むことで何が得られるのか、まとめてみたいと思います。

1. 世界の見え方が変わる体験

この本を読むと、世界の見え方が変わってきます 。それまで当たり前だと思っていたことが、実は偏った見方だったと気づくのです。

「理路整然と話せるほうがいい」「能力がある人が評価されるべき」――そうした価値観を疑うことから始まります 。一度疑い始めると、いろいろなことが違って見えてきます。

見方が変わるというのは、とても大きな経験です。同じ現実でも、見方が変われば意味が変わってきます。この本は、そんな体験を与えてくれるのです。

2. 自分を責めなくてよくなる

言葉にできない自分、理路整然と話せない自分を責めていませんでしたか。この本を読むと、そんな自分を責めなくてよくなります 。

言葉にできないことは、恥ずかしいことではありません 。むしろ本当なのです 。そう思えるだけで、ずいぶん楽になれるはずです。

自分を責めることに使っていたエネルギーを、別のことに向けられるようになります。それは、人生を大きく変える可能性を持っています。

3. 誰かの痛みに気づけるようになる

この本を読むと、想像力が育ちます 。人にはそれぞれ事情があることに、気づけるようになるのです 。

「自分だったら決してこういうことはしない」と腹が立つことがあっても、「相手には特別な事情があるかもしれない」と思えるようになります 。それは、より優しい社会を作ることにつながるでしょう。

誰かの痛みに気づけることは、とても大切な力です。この本は、その力を育ててくれます。

4. いつか救われる一冊になるかもしれない

今すぐには必要ないと感じるかもしれません。でもいつか、つらいときが来たら、この本のことを思い出してほしいのです。

頭木さんにとって文学が救いだったように 、この本が誰かの救いになる可能性があります。「自分だけじゃない」と思えることが、どれほど力になるか。

本棚に置いておいて、必要なときに手に取る。そんな一冊になってくれるはずです。すぐに答えをくれる本ではなく、そっと寄り添ってくれる本なのです 。

おわりに

『口の立つやつが勝つってことでいいのか』は、問いかけの本です。簡単な答えをくれるわけではありません。でも読んでいるうちに、自分なりの答えが見えてくるかもしれません。

言葉にできないことの価値、弱さの中にある美しさ、一つの価値観で判断することの危うさ――この本が投げかけるテーマは、どれも今の時代に必要なものばかりです。頭木さんの静かな語り口は、読む人の心に深く届いていきます 。

読み終えたとき、あなたの世界は少しだけ広がっているはずです。そして誰かに優しくなれているかもしれません。それこそが、この本が与えてくれる一番の贈り物なのです。

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