【インティマシー・コーディネーター】あらすじ要約・ネタバレ・考察・読書感想文・レビュー(著:西山ももこ)

ヨムネコ

「映画の性的なシーンって、実際どうやって撮られているの?」

そんなことを考えたことはありませんか?

画面に映るのはほんの数秒でも、その裏側には俳優の葛藤や制作側との微妙なやり取りがあります。西山ももこさんの『インティマシー・コーディネーター:正義の味方じゃないけれど』は、その見えない部分を丁寧に描いた一冊です。この本を読むと、映画業界の新しい動きと、一人の女性が辿った予想外のキャリアが見えてきます。副題の「正義の味方じゃないけれど」という言葉には、著者の謙虚さと覚悟が込められています。

「インティマシー・コーディネーター」という本について

映画業界で今、静かに広がりつつある新しい職業があります。それがインティマシー・コーディネーターです。この本は、日本で数人しかいないその仕事に就いた西山ももこさんが、自分の半生と仕事の現場を綴ったノンフィクションです。

基本情報

項目内容
著者西山ももこ
出版社論創社
発売日2024年4月1日
価格1,800円+税
ページ数248ページ
ジャンルノンフィクション

この本が今注目されている理由

2024年、映画『先生の白い嘘』でインティマシー・コーディネーター不在が問題になりました。性的なシーンを含む作品なのに、俳優を守る専門家がいなかったのです。そのニュースをきっかけに、多くの人がこの職業の存在を知りました。

けれど西山さんは、インティマシー・コーディネーターを「正義の味方」とは呼びません。ヒーローのように華々しい存在ではなく、地道に現場をサポートする裏方だからです。そんな現実的な視点が、この本の大きな魅力になっています。

著者・西山ももこさんという人

西山さんのキャリアは、一言では説明できないほど多彩です。アイルランドで学生時代を過ごし、プラハでダンスを学び、アフリカでコーディネーターとして働いていました。そして今、映画の撮影現場で俳優と監督の間に立っています。

海外での学びとキャリアのスタート

西山さんは1979年、東京で生まれました。高校からカレッジ卒業まで、アイルランドのダブリンで過ごしています。その後、チェコのプラハ芸術アカデミーに留学してダンスを専攻しました。

海外で長く暮らした経験が、後の仕事に大きく影響しています。異文化の中で生きることは、他者との距離感や境界線を意識することでもあります。それは今、インティマシー・コーディネーターとして俳優の「境界線」を尊重する仕事に直結しているのです。

アフリカ専門コーディネーターからの転身

2009年から8年間、西山さんはアフリカ専門の撮影コーディネート会社で働いていました。日本のテレビ局やメディアがアフリカで撮影をする際に、現地とのやり取りをサポートする仕事です。

けれどその経験は、喜びだけではありませんでした。日本メディアのアフリカに対する偏見やステレオタイプに満ちた番組作りに、疑問を感じたといいます。面白ければ何をしても許されるのか?そんな思いが、後に映画業界での「同意」を大切にする仕事へとつながっていきます。

日本で数人しかいないインティマシー・コーディネーターに

2020年、コロナ禍の真っ只中でした。西山さんは海外在住の友人から、アメリカの協会がオンラインでインティマシー・コーディネーターの講座を開くと教えてもらいました。なじみのない分野でしたが、仕事内容に惹かれて受講を決めます。

3週間、毎日みっちりオンラインで授業を受けました。ジェンダー・スタディーズ、ハラスメント、メンタルケアなど、多岐にわたる知識を学びます。そして資格を取得し、日本でこの仕事を始めました。今、日本でインティマシー・コーディネーターとして活動している人は数人しかいません。

インティマシー・コーディネーターという仕事

この仕事は、#MeToo運動をきっかけに生まれました。映画やドラマで性描写や体の露出があるシーンに立ち会い、安心できる撮影環境を作るのが役割です。単純そうに見えて、実はとても繊細な仕事です。

俳優と監督の間に立つ役割

インティマシー・コーディネーターは、監督の演出意図を尊重しながら、俳優の心と体を守ります。どちらか一方の味方になるのではなく、双方が納得できる形を探るのです。

「今日、脱ぐなんて聞いてない!」と俳優が撮影現場で動揺しないように、事前に緻密な情報を把握しておくことが大切です。台本を読み込み、監督やプロデューサーと打ち合わせをします。それぞれのシーンがどのようにイメージされているのか、着衣なのか肌の露出があるのか、事細かに聞き取ります。

撮影現場で実際に何をするの?

監督から聞き取った内容を、今度は俳優に伝えます。「それを演じることに抵抗がないか」を丁寧に確認するのです。ここで重要なのは、質問の仕方です。

「このシーンでキスします。できますか?」と大雑把に聞いたら、よくわからないまま「はい!」と答えてしまうかもしれません。だから「ここで相手の俳優さんがこのように近づいてきますがOKですか?」「服を少し脱がされますがOKですか?」と、キスに至るまでの状況を細かく分けて質問します。どこまでがOKでどこからがNGなのか、細かい線引きをする作業が欠かせません。

なぜ今この仕事が必要なのか

映画業界には、断れないムードがあります。監督やプロデューサーにキャスティング権があるため、面と向かって頼まれたら「NO」とは言いづらいのです。これは日本だけでなく、各国に存在する風潮かもしれません。

だからこそ、インティマシー・コーディネーターという第三者が必要なのです。俳優が自分の「境界線」を把握し、それを守れる環境を作ること。それが、この仕事の本質です。

こんな人におすすめ!

この本は、映画が好きな人だけのものではありません。働き方や人との関わり方について考えたい人にも、深く響く内容になっています。

映画やドラマの制作に興味がある人

撮影現場の裏側が、とても具体的に描かれています。性的なシーンがどう撮られているのか、どんな配慮がされているのか(あるいはされていないのか)が分かります。映画の見方が少し変わるかもしれません。

日本では入浴シーンが意外と多いため、そうしたシーンにも注意深く対応するという話は興味深いです。文化によって「デリケートなシーン」の定義が違うことが見えてきます。

俳優という仕事に関心がある人

俳優は、自分の体を使って表現をする職業です。だからこそ、他の仕事以上に「同意」が重要になります。けれど実際の現場では、それが曖昧にされることも多かったのです。

この本を読むと、俳優という職業の難しさと、その尊厳を守ることの大切さが伝わってきます。演じることと、自分を守ること。その両立を可能にするために、インティマシー・コーディネーターが存在しています。

働き方や新しいキャリアについて考えたい人

西山さん自身、インティマシー・コーディネーターを目指していたわけではありませんでした。アフリカでのコーディネーターという仕事から、偶然この道に辿り着いたのです。人生は予想外の展開をすることがあります。

新しい職業が生まれる瞬間を、この本は記録しています。自分で道を作っていくこと。それは怖いけれど、同時にワクワクする冒険でもあります。

映画業界のハラスメント問題に関心がある人

映画業界には、長い間「当たり前」とされてきた慣習がありました。けれどそれが本当に「当たり前」なのか?この本は、その問いを静かに投げかけています。

ハラスメントを防ぐこと。それは単に被害を減らすだけでなく、より良い作品を作ることにもつながります。安心できる環境でこそ、俳優は最高のパフォーマンスを発揮できるからです。

本の内容(ネタバレあり)

この本は三部構成になっています。西山さんの人生、仕事の実際、そしてこれからの展望が順に語られます。それぞれの部分が、深く結びついています。

第Ⅰ部:西山さんの紆余曲折な人生

タイトル通り、西山さんの人生は真っ直ぐではありません。アイルランド、チェコ、アフリカ。いろいろな場所で、いろいろな仕事をしてきました。

特に印象的なのは、アフリカでのコーディネーター時代の経験です。日本のメディアが持つ偏見やステレオタイプに疑問を感じたこと。作品が面白ければ、何をしても許されるのか?この問いが、後の仕事の根底にあります。

西山さんは自分を「完全にクリーンだとは思っていない」と書いています。正義の味方ではなく、間違いも犯す一人の人間として。その正直さが、読者の心を打ちます。

第Ⅱ部:インティマシー・コーディネーターの実際の仕事

ここが本の核心部分です。具体的な仕事内容が、丁寧に説明されています。台本の読み込み、監督との打ち合わせ、俳優への確認。一つ一つのプロセスが、どれほど重要かが分かります。

「大丈夫?」という言葉の危険性についても触れられています。「大丈夫?」と聞かれると、反射的に「大丈夫!」と答えてしまう人が多いからです。だから「大丈夫」という言葉を使う際は、より慎重に、より具体的に質問します。

コミュニケーションの正解なんてわからない、と西山さんは言います。どれだけ経験を積んでも、毎回反省する。その謙虚さが、この仕事には必要なのです。

第Ⅲ部:これからの展望と社会への問いかけ

インティマシー・コーディネーターは、まだ日本では広く認知されていません。けれど少しずつ、この仕事の必要性が理解され始めています。西山さんは若手俳優を集めた講習会なども行い、意図しない性的なシーンの撮影を防ぐための活動を幅広く展開しています。

映画業界だけの問題ではありません。同意のあり方、境界線の尊重、パワーバランス。これらは、すべての職場、すべての人間関係に関わるテーマです。

本を読んだ感想・レビュー

この本を読み終えて、映画の見方が変わりました。スクリーンに映る俳優の背後に、こんなにも多くの人の努力があったのかと。そして同時に、まだ十分ではない現実も見えてきました。

「正義の味方じゃない」という正直さに共感

西山さんは、自分を完璧な存在として描きません。間違うこともあるし、悩むこともある。コミュニケーションの正解なんて分からないと言い切ります。

その正直さが、逆に信頼を生みます。誰かを救うヒーローではなく、一緒に悩み、一緒に考える仲間として。西山さんはそこにいるのです。完璧を目指さないからこそ、本当に人に寄り添えるのかもしれません。

新しい仕事を作り出す勇気

日本でこの仕事を始めたとき、理解してくれる人は少なかったはずです。それでも西山さんは、必要だと信じて続けてきました。新しい道を切り開くことは、孤独で不安な作業です。

けれど誰かが始めなければ、何も変わりません。西山さんの勇気が、これから映画業界を目指す若い人たちを守ることにつながっています。一人の行動が、大きな変化を生むことがあるのです。

現場のリアルが伝わってくる

この本の素晴らしいところは、理想論に終わらないことです。現場の複雑さ、難しさがありありと描かれています。監督の演出意図も大切だし、俳優の気持ちも大切。そのバランスを取ることは、簡単ではありません。

西山さんは、撮影のたびに反省していると言います。「あの声がけはよくなかったかもしれない」と。その試行錯誤の過程が、この本には詰まっています。完成された答えではなく、模索の記録として。

読書感想文を書くヒント

この本を読んで感想文を書くなら、自分自身の経験と結びつけて考えてみましょう。映画業界の話ですが、そこで語られているテーマは私たちの日常にも通じています。

自分が俳優だったらどう感じるか想像してみる

もし自分が俳優で、性的なシーンを演じることになったら?監督から「このシーンで脱いでほしい」と言われたら?そう想像してみてください。

すぐに「NO」と言えるでしょうか。それとも、断ったら次の仕事がもらえないかもしれないと不安になるでしょうか。その想像が、インティマシー・コーディネーターという仕事の必要性を実感させてくれます。

「同意」について考えてみる

「同意」という言葉は、簡単そうで実は難しいです。「大丈夫?」と聞かれて「大丈夫じゃない」と言える環境は、どれくらいあるのでしょうか。

学校でも、部活でも、友達関係でも、同じことが起きています。本当は嫌なのに、断れない。そんな経験はありませんか?この本が語る「同意」の問題は、私たちの身近なところにもあるのです。

新しい仕事が生まれる背景を探る

なぜインティマシー・コーディネーターという仕事が生まれたのか?それは#MeToo運動がきっかけでした。社会の変化が、新しい職業を生み出したのです。

同じように、これから先も新しい仕事が生まれていくでしょう。その背景には、いつも社会の問題があります。問題を見つけ、解決策を考える。それが新しい職業につながっていくのです。

この本から考える:映画業界と「同意文化」

インティマシー・コーディネーターの存在は、映画業界に「同意文化」を根付かせようとする試みです。けれどそれは、映画業界だけの話ではありません。

日本の映画業界が抱えてきた問題

日本の映画業界には、独特の慣習がありました。監督の権限が強く、俳優が意見を言いにくい空気があったのです。それが「芸術のため」「作品のため」という言葉で正当化されてきました。

けれど本当にそれで良いのでしょうか?俳優の尊厳を犠牲にして作られた作品は、本当に素晴らしいものと言えるのでしょうか。この本は、そんな問いを投げかけています。

「当たり前」が変わっていく瞬間

何年も、何十年も「当たり前」だったことが、ある日突然「おかしい」と気づかれることがあります。インティマシー・コーディネーターという仕事の登場は、まさにその瞬間です。

変化は、いつも抵抗を伴います。「今まで問題なかったのに」「面倒くさい」という声もあるでしょう。けれど西山さんは、地道に活動を続けています。いつか「当たり前」になる日を信じて。

他の業界にも広がる可能性

同意を大切にすること、境界線を尊重すること。これらは、すべての職場で必要なことです。医療現場、教育現場、オフィス。どこでも応用できる考え方です。

インティマシー・コーディネーターの仕事が広く知られることで、他の業界にも良い影響が広がっていくかもしれません。一つの職業が、社会全体を変えるきっかけになる。そんな可能性を、この本は秘めています。

なぜこの本を読んだほうが良いのか

この本は、単なる仕事の解説書ではありません。一人の女性の生き方を通して、働くこと、他者と関わること、社会を変えることについて考えさせてくれます。

見えない仕事の価値を知ることができる

世の中には、見えない仕事がたくさんあります。インティマシー・コーディネーターも、その一つです。映画のクレジットに名前が出ても、多くの人はその役割を知りません。

けれど見えないからといって、価値がないわけではありません。むしろ、見えないところで支える仕事こそが、全体を成り立たせているのです。この本は、そんな仕事の大切さを教えてくれます。

働く環境を自分で変えていける希望

西山さんは、既にある仕事に就いたのではありません。必要だと思った仕事を、自分で作り出したのです。それは決して簡単なことではなかったはずです。

けれど、できないことではありません。おかしいと思ったことを変えようとすること。それは誰にでもできます。この本は、そんな希望を与えてくれます。

誰かの尊厳を守ることの大切さ

この本の根底にあるのは、人の尊厳を守ることです。俳優であれ、監督であれ、誰もが尊重される環境を作ること。それがインティマシー・コーディネーターの仕事です。

私たちも、日々の生活の中で誰かの尊厳を守ることができます。「大丈夫?」という言葉の使い方を見直すこと。相手の境界線を尊重すること。小さなことから始められます。

まとめ

この本を読み終えた後、きっと映画館で映画を観るときの気持ちが少し変わるでしょう。スクリーンに映る俳優たちが、どんな環境で演じているのか。そこに思いを馳せるようになるかもしれません。

インティマシー・コーディネーターという仕事は、まだ日本では珍しい存在です。けれどこれから先、もっと広がっていくはずです。そして映画業界だけでなく、私たちの働き方や人との関わり方にも、良い影響を与えてくれるかもしれません。西山さんの言葉は、正義の味方を気取らない分、本当の優しさに満ちています。

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