【コロナと潜水服】あらすじ要約・ネタバレ・考察・読書感想文・レビュー(著:奥田英朗)
「最近、笑いながら本を読んだのはいつだろう?」そんなことを考えたことはありませんか。
奥田英朗の『コロナと潜水服』は、ちょっぴり切なくて、でも読み終わったあとに心がじんわり温かくなる短編集です。不思議な体験をする人たちの物語が3つ収録されています。妻の不倫で家を出た小説家、追い出し部屋に異動させられた会社員、コロナを感知できる子どもを持つ父親。どの主人公も人生の転機を迎えているのですが、そこに少しだけファンタジーが混ざります。怖い話ではなく、むしろ優しい気持ちになれる物語ばかりです。軽妙な文体で描かれているので、重たくならずに最後まですらすら読めます。
「コロナと潜水服」はどんな本?
1. 奥田英朗が描く、少し不思議で優しい短編集
この本は3つの短編を収録した作品集です。タイトルだけ見ると「コロナの話?」と思うかもしれません。でも実際は、コロナの話は3作品のうちの1つだけです。
共通しているのは、主人公たちが皆「ちょっと不思議な体験」をすることでしょう。幽霊と出会ったり、謎のコーチに出会ったり、子どもが超能力を持っていたり。ホラーではなく、むしろ心が温かくなるような不思議さです。人生がうまくいかないときに、ふと現れる小さな奇跡のような存在たち。そんな出会いが、主人公の心を少しずつ変えていきます。読み終わったあとに「ああ、なんだか元気が出た」と感じられる作品です。
2. 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | コロナと潜水服 |
| 著者 | 奥田英朗 |
| 出版社 | 光文社 |
| 発売日 | 2020年12月23日(単行本)、2023年12月12日(文庫版) |
| ページ数 | 253ページ |
| 収録作品 | 「海の家」「ファイトクラブ」「コロナと潜水服」 |
3. なぜこの本が話題になったのか?
コロナ禍という時代の空気をリアルタイムで切り取った作品だからです。2020年に発売されたこの本は、まさにコロナ禍真っ只中の人々の暮らしを描いています。
でも暗い話ではありません。むしろ「こんな大変な時期を、笑いながら描けるなんて!」と驚かされます。緊急事態宣言、在宅勤務、マスク不足。当時を知っている人なら「あった、あった!」と思い出すような出来事が、ユーモアたっぷりに描かれているのです。辛い状況を軽妙なタッチで描くことで、読者の心を癒してくれます。コロナ疲れしている人たちにとって、まさに精神安定剤のような作品でした。
著者・奥田英朗はどんな作家?
1. 直木賞作家のプロフィール
奥田英朗は1959年10月23日生まれ、岐阜県岐阜市出身の小説家です。広告プランナーやコピーライターとして働いていた経験を持ちます。
1997年に『ウランバーナの森』でデビューしました。そして2004年、『空中ブランコ』で第131回直木賞を受賞しています。この作品は精神科医・伊良部シリーズの一作で、コミカルな医師と患者のやりとりが大人気となりました。2007年には『家日和』で第20回柴田錬三郎賞も受賞しています。広告業界で培った言葉のセンスが、小説の中でも光っているのかもしれません。
2. 代表作と作品の傾向
伊良部シリーズ(『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』『町長選挙』)が最も有名でしょう。精神科医の伊良部が型破りな方法で患者を治療していく物語です。
他にも『最悪』『邪魔』といった社会派ミステリー、『ナオミとカナコ』のようなサスペンス、『オリンピックの身代金』のようなエンターテインメント作品など、幅広いジャンルを手がけています。どの作品にも共通しているのは、登場人物の心理描写の巧みさです。人間の弱さや滑稽さを、温かい目線で描いています。読者が「わかる、わかる」と共感できる人物ばかりなのです。
3. 幅広いジャンルを描く多彩な作家
ミステリーからユーモア小説、社会派作品まで、本当にバラエティ豊かです。シリアスな作品もあれば、本作のように笑える作品もあります。
読者を選ばない書き方ができる作家だと思います。難しい言葉を使わず、誰にでもわかる自然な文章で物語を紡ぐのです。どんな題材でも「奥田英朗らしさ」が滲み出ています。それは人間への優しい眼差しと、ユーモアのセンスでしょう。だからこそ多くの読者に愛され続けているのです。
こんな人におすすめしたい!
1. 心が疲れているときに読みたい人
仕事や人間関係で疲れているとき、この本はぴったりです。重たいテーマを扱っていても、読後感が軽いのです。
主人公たちは皆、人生でつまずいています。でも彼らが不思議な体験を通して少しずつ前を向いていく姿を見ていると、「自分も大丈夫かもしれない」と思えてきます。説教臭くないのがいいところです。「頑張れ!」と言われるのではなく、ただ寄り添ってもらえるような感覚。癒されたい人にこそ読んでほしい一冊です。電車の中で読むと笑ってしまうかもしれないので、家で読むのがおすすめです。
2. 奥田英朗の作品が好きな人
伊良部シリーズや『家日和』が好きだった人には、絶対に刺さる内容です。あの温かくてユーモアあふれる世界観が、この作品にもしっかり詰まっています。
『家日和』以来の短編集ということで、久しぶりに奥田英朗のこういう作風を楽しめます。軽妙な語り口、クスッと笑える場面、そしてじんわりくる優しさ。「ああ、これこれ!」と思える作品です。新しい奥田英朗の一面も見られるので、ファンなら読んで損はありません。むしろ読まないともったいないくらいです。
3. ファンタジー要素のある小説が好きな人
リアルな日常に、ちょっとだけ非日常が混ざる感じが好きな人におすすめです。完全なファンタジーではなく、あくまで「もしかしたらあるかも?」と思えるくらいの不思議さです。
幽霊が出てきても怖くないし、超能力があっても派手ではありません。むしろ日常の延長線上にある、ささやかな奇跡のような出来事ばかりです。そのさじ加減が絶妙で、現実感を保ちながらも夢のある物語になっています。ファンタジーが苦手な人でも読みやすいと思います。
「海の家」のあらすじ(ネタバレあり)
1. 妻の不倫で家を出た小説家
主人公の村上浩二は49歳の小説家です。ある日、妻の洋子が不倫していることを知ってしまいます。
洋子は広告会社で営業職として働いていました。大学3年生の娘・結花もいる家庭です。浩二は妻の不貞にショックを受け、とりあえず家を出ることにしました。向かったのは神奈川県の葉山町、一色海岸から歩いて1分のところにある静かな一軒家です。海の近くで執筆に集中しようと考えたのでしょう。ひとりの時間を過ごすには最高の場所でした。
2. 葉山の古民家に現れた少年
一軒家で暮らし始めると、不思議なことが起こります。誰もいないはずなのに、子どもの足音が聞こえるのです。
廊下を走る音、誰かの視線。最初は気のせいかと思っていました。でもある日、少年の姿が見えるようになります。その子の名前はタケシ。どうやら幽霊のようです。怖いかと思いきや、タケシはとても人懐っこい子どもでした。浩二は次第に、タケシとの時間を楽しむようになります。ひとりじゃなくなった安心感もあったのでしょう。
3. タケシとの交流と別れ
浩二とタケシは一緒に過ごす時間が増えていきます。娘の結花も家を訪ねてきて、父親と会話を重ねます。
タケシは浩二の心を癒してくれる存在でした。でも幽霊である以上、ずっと一緒にいられるわけではありません。やがて別れのときがやってきます。切ないけれど、温かい結末です。浩二はタケシとの出会いを通して、自分の人生を見つめ直すことができました。妻との関係、娘との関係、そして自分自身のこと。子どもの幽霊ものは良い話が多いと言われますが、この作品もまさにそうです。
「ファイトクラブ」のあらすじ(ネタバレあり)
1. 追い出し部屋に異動させられた会社員
三宅邦彦は会社から早期退職を勧告されます。でも彼はそれを拒否し続けました。
すると会社は、邦彦を総務部危機管理課という新設部署に異動させます。実質的な追い出し部屋です。そこに集められたのは、同じように会社から疎まれている社員たちでした。与えられた仕事は警備の仕事。明らかに嫌がらせです。でも邦彦たちは諦めませんでした。仕事が終わったあと、管理課の同僚たちと一緒にトレーニングをするようになります。
2. 謎のコーチとボクシング
ある日、嘱託のオッサンがやってきて、ボクシングのコーチを始めます。最初は戸惑いました。
でもコーチの言葉には説得力がありました。「一回殴り合うと怖さが半減する」「笑ってごまかさない」。邦彦たちは次第に、ボクシングにのめり込んでいきます。体を動かすことで、心も少しずつ変わっていくのを感じました。追い出し部屋という辛い状況でも、仲間がいることで乗り越えられる。そんな希望が見えてきたのです。
3. 仲間たちとの絆
追い出し部屋の仲間たちは、ボクシングを通して絆を深めていきます。そしてある日、外国人窃盗団を捕まえるという出来事が起こります。
会社の対応そのものは変わらないかもしれません。現実は厳しいままです。でも邦彦自身が以前と変わっているので、ラストは明るい雰囲気になります。軽妙なタッチで描かれているので、悲壮感はありません。気が滅入るような出だしなのに、読み終わる頃にはスカッと晴れやかな気分になれる作品です。
「コロナと潜水服」のあらすじ(ネタバレあり)
1. コロナを感知できる5歳の息子
会社員の康彦は、コロナの影響で在宅勤務になります。5歳の息子・海彦と過ごす時間が増えました。
するとあることに気づきます。海彦は新型コロナウイルスを感知する能力があるようなのです。祖母と康彦を新型コロナウイルスから守ったこともありました。最初は信じられませんでした。でも海彦の言動を見ていると、どうやら本当らしいのです。コロナ禍という異常事態の中で、さらに不思議な出来事が起こり始めます。
2. 父親が潜水服を着る理由
ある日、康彦がソフトウェアの講習から帰ってくると、妻の真理子が驚くべきものを買ってきていました。それは潜水服です。
防護服や雨合羽がないから、古道具屋で潜水服を買ってきたというのです。ぶっ飛んでいます。でも真理子は大真面目でした。康彦はコロナにかかったと判断され、潜水服を着ることになります。そして潜水服を着たまま外へ出るのです。街で潜水服を着た人間を見たら、誰でも驚くでしょう。でもその光景は、なんだか微笑ましくもあります。
3. お腹の子が教えてくれたこと
物語が進むにつれて、海彦の能力の正体がわかってきます。そして真理子も最後の最後に大切なことを話します。
ツッコミ役だった真理子が喋る内容が、物語をきれいに締めくくります。コロナ禍の最初は確かにこんな感じだったと、読者は懐かしさすら感じるかもしれません。緊急事態宣言時の様子が、不思議な現象と軽妙なタッチで描かれています。笑いが止まらない展開です。特に後半は要注意です。いい夫婦だなと思える温かい結末でした。
本を読んだ感想とレビュー
1. 日常に溶け込む不思議な出来事
この本の魅力は、ファンタジーなのにリアルなところです。幽霊が出てきても、超能力があっても、どこか「ありえるかも」と思わせる描き方をしています。
日常の中にすっと入り込んでくる不思議さ。それが奥田英朗の上手さだと思います。現実から大きく飛躍しないからこそ、読者は物語に入り込めます。主人公たちの悩みも普通の人が抱えそうなものばかりです。妻の不倫、会社の追い出し部屋、コロナ禍の不安。誰もが共感できる状況だからこそ、不思議な出来事が際立つのでしょう。バランス感覚が素晴らしい作品です。
2. 登場人物の優しさに癒される
この本に出てくる人たちは、みんな基本的に優しいのです。お人好しで、気が弱くて、でも誠実。
悪い人が出てこないわけではありません。でも物語の軸にいるのは、温かい心を持った人たちです。だから安心して読めます。イライラしたり、不快になったりすることがないのです。登場人物たちの優しさが、読者の心にも染みてきます。辛い状況でも人を思いやる気持ちを忘れない。そんな姿に励まされます。
3. 切なさの中にある希望
どの話も、少しだけ切ない要素があります。幽霊との別れ、変わらない会社の対応、コロナ禍の不安。
でも絶望ではありません。読み終わったあとは明るく前向きな気持ちになれます。それは主人公たちが、不思議な体験を通して少しずつ変わっていくからです。完全にハッピーエンドとは言えないかもしれません。でも「なんとかなるかも」と思える結末ばかりです。その絶妙なさじ加減が、この本の魅力だと思います。
4. 短編だからこそ味わえる余韻
3つの短編は、どれも読みやすい長さです。1作品ずつ日をまたいで読もうと思っても、面白くて最後まで一気に読んでしまいます。
短編だからこそ、余韻が残ります。長編のようにすべてを説明しないのです。読者に想像の余地を残してくれます。「あの後どうなったんだろう」と考える楽しさがあります。そしてまた読み返したくなる。何度読んでも新しい発見がある作品です。
読書感想文を書くときに押さえたいポイント
1. どの短編が一番心に残ったか?
読書感想文を書くなら、まず自分が一番好きだった話を選びましょう。3つの短編のうち、どれが心に残りましたか。
「海の家」の切なさが好きな人もいれば、「ファイトクラブ」の前向きさに惹かれる人もいるでしょう。表題作の「コロナと潜水服」が一番面白かったという人も多いはずです。自分が一番感情を動かされた作品について書くと、説得力のある感想文になります。なぜその話が好きなのか、どこに共感したのかを具体的に書いてみてください。
2. 登場人物の気持ちを想像してみる
主人公の心情を深く考えてみましょう。浩二はなぜタケシに心を開いたのか、邦彦はボクシングで何を得たのか、康彦は潜水服を着てどう感じたのか。
表面的なストーリーだけでなく、登場人物の内面に注目すると、感想文に深みが出ます。彼らが不思議な体験を通して何を学んだのか、どう変わったのか。そこに作者のメッセージが隠されているはずです。自分なりの解釈を書いてみてください。
3. 自分だったらどうするかを考える
もし自分が同じ状況に置かれたら、どうするでしょうか。妻が不倫していたら、追い出し部屋に入れられたら、子どもに超能力があったら。
自分事として考えることで、感想文がより具体的になります。主人公と同じ行動をとるか、それとも違う選択をするか。そこから自分の価値観が見えてきます。読書感想文は本の紹介ではなく、本を通して自分を語る場です。この作品から何を感じ、何を学んだのかを正直に書いてみましょう。
作品に込められたメッセージを考察
1. 見えないものを信じる力
3つの短編すべてに共通するのは、「見えないもの」が登場することです。幽霊、謎のコーチ、子どもの超能力。科学では説明できない不思議な存在です。
でも主人公たちは、それを否定しません。むしろ受け入れて、その体験から何かを学びとります。現代社会では、目に見えるもの、証明できるものばかりが重視されがちです。でも本当に大切なものは、目に見えないことが多いのではないでしょうか。愛情、信頼、希望。そうした見えないものを信じる力が、人生を豊かにしてくれる。この作品はそんなメッセージを伝えているように感じます。
2. 人生の転機と新しい出会い
どの主人公も、人生の転機を迎えています。そしてその転機に、不思議な出会いが重なるのです。
辛いことがあったとき、思いがけない出会いが人生を変えることがあります。それは人との出会いかもしれないし、新しい趣味との出会いかもしれません。この作品では、それがファンタジー要素として描かれています。でも本質は同じです。困難な状況でも、何か新しいことに目を向けることで道が開ける。そんな希望を感じさせる物語です。
3. コロナ禍という時代背景
表題作はコロナ禍をテーマにしています。2020年という特別な時期を切り取った作品です。
あの時期、誰もが不安を抱えていました。先の見えない恐怖、日常の変化、人との距離。そんなネガティブな要素満載の題材を、奥田英朗はコミカルに描いています。辛い状況だからこそ、笑いが必要だったのかもしれません。この作品は、コロナ禍という時代を生きた人たちへの応援歌のようにも感じます。大変な時期でも、工夫次第で笑って過ごせる。そんなメッセージが込められているのではないでしょうか。
なぜ「コロナと潜水服」を読んだ方が良いのか?
1. 現実に疲れたときの処方箋
日々の生活に疲れているとき、この本はまさに処方箋になります。重たいテーマを扱っていても、読後感が軽いのです。
笑えて、泣けて、そして元気が出る。そんな作品はなかなかありません。特にコロナ禍以降、心が荒んでしまった人は多いはずです。そんなときこそ、この本を手に取ってほしいと思います。殺伐とした気持ちが和らいでいくことでしょう。読むだけで心が癒される、そんな不思議な力を持った作品です。
2. 奥田英朗の新しい一面が見られる
ミステリーやサスペンスのイメージが強い奥田英朗ですが、この作品ではまた違った魅力を見せてくれます。
ファンタジー要素を取り入れながらも、奥田英朗らしい人間描写は健在です。幅広い作風を持つ作家だからこそ書ける物語でしょう。既存のファンはもちろん、奥田英朗を読んだことがない人にもおすすめです。この作品から入って、他の作品も読んでみるのもいいかもしれません。
3. 短時間で読めるのに心に残る
短編集なので、忙しい人でも読みやすいです。1話ずつ区切って読むこともできます。
でも短いからといって、内容が薄いわけではありません。むしろ短いからこそ、余韻が残ります。サクッと読めるのに、読後はじんわりと心に染みる。そんな作品です。本を読む時間があまりとれない人にこそ、おすすめしたい一冊です。
まとめ
『コロナと潜水服』は、不思議と優しさが詰まった短編集です。笑えて、切なくて、でも最後は温かい気持ちになれる。そんな物語が3つ収録されています。奥田英朗の筆力を感じられる作品でもあります。
この本を読み終わったら、きっと他の奥田作品も読みたくなるはずです。伊良部シリーズや『家日和』など、同じように心温まる作品がたくさんあります。また、コロナ禍を題材にした他の作家の作品と読み比べてみるのも面白いかもしれません。時代をどう切り取るかは、作家によって全く違います。この本をきっかけに、読書の幅を広げてみてはいかがでしょうか。
