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【この夏の星を見る】あらすじ要約・ネタバレ・考察・読書感想文・レビュー(著:辻村深月)

ヨムネコ

「あの夏、何も始まらなかった」という喪失感を抱えたまま、今を生きている人はどれくらいいるでしょうか。

2020年、突然世界が止まってしまったあの時期。部活も、友達との約束も、かけがえのない日々が次々と消えていきました。辻村深月さんの『この夏の星を見る』は、そんな失われた夏を取り戻そうと動き出した高校生たちの物語です。

茨城、東京、長崎。遠く離れた場所で、同じ空を見上げている若者たちがいます。彼らが目指したのは、オンラインで開催する「スターキャッチコンテスト」。失われた時間への静かな怒りと、それでも前を向こうとする優しい覚悟が、この作品には詰まっています。ここでは、あらすじから考察、読書感想文のポイントまで、この物語の魅力を丁寧に紹介していきます。

『この夏の星を見る』はどんな作品?

辻村深月さんが2023年に発表した長編小説で、2020年のコロナ禍を舞台にした青春群像劇です。488ページにわたって描かれるのは、失われた日々を自らの手で取り戻そうとする若者たちの姿。2025年には映画化もされ、多くの人の心を揺さぶっています。

1. 2020年のコロナ禍を生きた高校生たちの物語

物語の時間軸は2020年春から夏にかけて。突然の休校、部活動の中止、修学旅行の延期。誰もが経験したあの閉塞感が、リアルに描かれています。

主人公たちは、大人たちが「仕方がない」と諦めていく中で、自分たちの夏を諦めきれませんでした。天文部の活動も、吹奏楽部のコンクールも、すべてが中止になっていく。けれど彼らは、失われた時間に対して静かに抵抗することを選びます。

当事者にしか書けないリアリティがそこにはあります。コロナ禍を経験した読者なら、きっと胸が締め付けられるはずです。辻村さんは、あの時代を記録として残すことの大切さを、この作品を通して示してくれました。

2. 3つの場所から同じ空を見上げる青春群像劇

茨城の高校生・亜紗と凛久、東京・渋谷の中学生・真宙、長崎・五島列島の円華と小春。物語は3つの視点で進んでいきます。

それぞれが抱える事情は異なります。凛久は車椅子の姉のために望遠鏡を完成させたいと願い、転校が迫っていました。円華と小春は、民宿を営む家への偏見に苦しんでいます。真宙もまた、自分だけの理由で星空を見上げています。

遠く離れた場所にいても、夜空は繋がっている。その感覚が、読んでいてじんわりと心に染みてきます。オンラインで繋がる彼らの関係性は、物理的な距離を超えた新しい絆の形を見せてくれました。

3. 2025年には映画化もされた話題作

2025年7月に実写映画が公開され、原作ファンからも高い評価を受けています。映画の主題歌「灯星」は、haruka nakamuraとsuis from ヨルシカによって制作され、作品の世界観を見事に表現していると評判です。

また、2024年本屋大賞では第13位にランクインしました。辻村深月作品の中でも特に感動的だという声が多く、読書感想文の題材としても人気を集めています。

原作と映画、どちらから触れても楽しめる作品です。ただし映画を先に見た場合でも、原作の細やかな心理描写はまた別の感動をもたらしてくれるでしょう。

著者・辻村深月さんについて

1980年山梨県生まれの小説家で、思春期の繊細な心理描写とミステリー要素を巧みに織り交ぜた作品を発表し続けています。千葉大学教育学部を卒業後、県庁関連の団体職員として働きながら執筆を続け、2004年にデビューしました。

項目内容
生年月日1980年2月29日
出身地山梨県笛吹市
学歴千葉大学教育学部卒業
デビュー作『冷たい校舎の時は止まる』(2004年)
主な受賞歴メフィスト賞、吉川英治文学新人賞、直木賞、本屋大賞
出版社KADOKAWA

1. 数々の文学賞を受賞したベストセラー作家

デビュー作『冷たい校舎の時は止まる』で2004年に第31回メフィスト賞を受賞して以来、順調にキャリアを重ねてきました。2011年には『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、2012年には『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞しています。

そして2018年、『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞しました。この作品は映画化もされ、辻村さんの代表作として広く知られています。本屋大賞には過去に3作品がノミネートされており、書店員からの信頼も厚い作家です。

2025年からは直木賞の選考委員も務めており、現代文学界における重要な存在となっています。デビューから20年以上経った今も、常に新しい作品で読者を驚かせ続けているのです。

2. 思春期の繊細な心を描くのが得意

辻村作品の最大の魅力は、思春期特有の複雑な感情を丁寧にすくい取る筆致にあります。学校という閉鎖的な空間で生まれる友情、嫉妬、憧れ、孤独。言葉にできない微妙な気持ちを、彼女は的確に描き出します。

「共感できるけれど、自分では言葉にできない気持ち」という読者の声が多いのも納得です。自分の心の中にあったモヤモヤが、辻村さんの文章を通して初めて形を持つ。そんな体験ができる作家はなかなかいません。

また、ミステリー要素を取り入れた作品も多く、先の読めない展開が読者を惹きつけます。青春小説でありながらページをめくる手が止まらない、そんな不思議な魅力を持った作品群です。

3. 代表作は『かがみの孤城』『ツナグ』など

『かがみの孤城』は、不登校の中学生たちが異世界で出会う物語で、本屋大賞受賞作として大きな話題を呼びました。学校に居場所がない子どもたちの心情を丁寧に描き、多くの読者の共感を得ています。

『ツナグ』は、死者と生者を繋ぐ「使者」の物語です。吉川英治文学新人賞を受賞したこの作品は、映画化もされ、辻村さんの名を広く知らしめました。温かくも切ない物語は、今でも多くの人に愛されています。

他にも『ぼくのメジャースプーン』『名前探しの放課後』『島はぼくらと』『ハケンアニメ!』『朝が来る』など、多様なテーマの作品を発表しています。どの作品から読んでも「辻村ワールド」を堪能できるでしょう。

こんな人におすすめ

『この夏の星を見る』は、青春小説が好きな人はもちろん、コロナ禍を経験したすべての人に読んでほしい作品です。特に以下のような方には強く響くのではないでしょうか。

1. コロナ禍で何かを諦めた経験がある人

部活の大会、修学旅行、卒業式、友達との約束。2020年から2021年にかけて、多くのものが失われました。

「仕方がない」と言い聞かせて諦めたけれど、心の奥にずっとわだかまりが残っている。そんな人にこそ、この作品は届くはずです。主人公たちの「失われた時間への怒り」は、きっとあなたの気持ちと重なります。

当事者だった中高生はもちろん、子どもを持つ親世代が読んでも胸を打たれるでしょう。あの時代を生きたすべての人にとって、この小説は一つの記録であり、慰めでもあるのです。

2. 青春小説や学園ものが好きな人

辻村深月作品の魅力である「学校を舞台にした青春物語」が存分に味わえます。天文部、吹奏楽部という部活動を軸に、それぞれの成長が描かれていく構成です。

友情、恋、家族との関係、将来への不安。思春期特有の複雑な感情が丁寧にすくい取られています。ミステリー要素は控えめですが、代わりに登場人物たちの内面描写が深く掘り下げられているため、感情移入しやすい作品です。

高校時代を思い出しながら読むもよし、今まさに青春真っ只中の人が読むもよし。世代を超えて共感できる普遍的なテーマが詰まっています。

3. 天体観測や星空に興味がある人

物語の重要な要素として「星」が登場します。ナスミス式望遠鏡、星座の知識、天体観測の楽しさ。天文部の活動を通して、星空の魅力が存分に描かれています。

「スターキャッチコンテスト」という架空のイベントも、星好きにはたまらない設定です。オンラインで星空を共有するという発想は、コロナ禍ならではのアイデアでもあります。

星を見上げる行為そのものが持つ意味についても考えさせられます。遠い光年をかけて届く光のように、人の想いもまた時間と距離を超えて届くのだという、詩的なメッセージが込められているのです。

4. 辻村深月さんの他の作品を読んだことがある人

『かがみの孤城』や『ツナグ』が好きだった人なら、間違いなく楽しめます。辻村さん特有の優しい視線と、思春期の心情を掬い取る筆致は健在です。

また、本屋大賞や直木賞を受賞した作家の新作として注目している人にもおすすめできます。2024年本屋大賞では第13位にランクインしており、読者からの評価も高い作品です。

辻村作品の中では比較的ミステリー要素が薄く、純粋な青春小説として楽しめる点も特徴です。初めて辻村作品に触れる人の入口としても適しているかもしれません。

あらすじ(ネタバレあり)

ここからは物語の核心に触れていきます。まだ読んでいない方は、先に本を手に取ることをおすすめします。

1. 茨城の天文部員・亜紗と凛久

物語の一つの軸は、茨城の高校に通う亜紗と凛久です。二人は天文部に所属していますが、コロナ禍で活動が制限されてしまいます。

凛久には車椅子の姉がいて、彼女のためにナスミス式望遠鏡を完成させることが夢でした。しかし家庭の事情で転校が決まっており、残された時間は限られています。亜紗は凛久の想いを知り、何とか力になりたいと考えます。

二人の関係は友情とも恋ともつかない微妙な距離感です。言葉にしない想いが丁寧に描かれていて、読んでいて胸が苦しくなります。茨城という地方都市の空気感も、リアルに伝わってくるのです。

2. 東京・渋谷の中学生・真宙

東京・渋谷に住む中学生の真宙は、都会の喧騒の中で星を見上げています。彼もまた、コロナ禍で日常を奪われた一人です。

真宙の視点からは、都市部での生活の様子が描かれます。人混みを避けながら生活する息苦しさ、オンライン授業の孤独感。地方とは異なる形での閉塞感が伝わってきます。

彼がなぜ星を見上げるのか、その理由は物語が進むにつれて明らかになっていきます。一見クールに見える真宙の内面には、誰にも言えない想いが隠されていました。

3. 長崎・五島列島の円華と小春

長崎・五島列島に住む高校生、円華と小春は吹奏楽部の仲間です。二人が通う高校では、毎年夏のコンクールが大きなイベントでしたが、今年は中止になってしまいました。

円華の家は民宿を営んでおり、コロナ禍でも島外から客を受け入れていました。そのことで周囲から偏見の目を向けられ、円華は苦しんでいます。小春はそんな円華を支えようとしますが、自分にできることの限界も感じていました。

島という閉鎖的な環境での人間関係の難しさが、リアルに描かれています。美しい自然と、そこに住む人々の複雑な感情。その対比が印象的です。

4. オンラインで繋がる「スターキャッチコンテスト」

離れた場所にいる彼らを繋いだのが、オンラインで開催する「スターキャッチコンテスト」でした。自分たちの手で夏を取り戻そうという試みです。

天文部の活動も、吹奏楽のコンクールも中止になった。けれど諦めたくない。そんな想いが、彼らを動かしました。オンラインという形でも、同じ空を見上げることで繋がれる。その発見が、物語の核心にあります。

準備を進める中で、それぞれが抱える事情や想いが少しずつ明らかになっていきます。距離があるからこそ言えることもある。オンラインという形が、彼らの関係性に新しい可能性をもたらしたのです。

5. それぞれの想いと別れ

コンテストを通して、彼らはそれぞれの答えを見つけていきます。凛久は姉への想いを形にし、円華は偏見に立ち向かう勇気を得ました。真宙もまた、自分の本当の気持ちに気づいていきます。

けれど物語はハッピーエンドだけではありません。転校、それぞれの道への旅立ち。出会いがあれば別れもあります。失われた夏は完全には戻ってこないけれど、それでも前を向いて歩き出す。そんな彼らの姿が、静かな感動を呼びます。

最後まで読むと、タイトルの意味が深く心に染みてきます。「この夏の星を見る」という行為が持つ意味。それは、失われた時間を嘆くのではなく、今ここにある光を大切にすることなのだと気づかされるのです。

『この夏の星を見る』を読んだ感想・レビュー

読み終えた後、しばらく余韻に浸ってしまう作品でした。コロナ禍という特殊な時代を生きた若者たちの記録として、そして普遍的な青春物語として、この小説は長く心に残るでしょう。

1. 失われた時間への切実な怒りと希望

何より印象的だったのは、主人公たちの静かな怒りです。「仕方がない」と言われ続けた日々への、諦めきれない想い。それが物語全体に流れています。

大人たちは簡単に「我慢しろ」と言いました。けれど高校生にとっての一年は、人生の大きな割合を占めています。その重みを、辻村さんは丁寧にすくい取ってくれました。

同時に、この作品には希望もあります。失われたものは戻らないけれど、それでも前を向く。自分たちの手で何かを始める。その姿勢が、読んでいて胸を熱くさせるのです。

2. 「夏を迎え撃つ」という覚悟に心を打たれた

「夏を迎え撃つ」という表現が、作中で使われていました。受け身ではなく、自ら立ち向かっていく。その覚悟が、若者たちの姿勢を象徴しています。

最悪の夏を、自分たちの手で最高の夏に変える。簡単なことではありません。けれど彼らは諦めなかった。その姿が、読者にも勇気を与えてくれます。

2020年という特定の年を舞台にしながら、この物語は時代を超えた普遍性を持っています。困難に立ち向かう若者の姿は、いつの時代も人の心を動かすものなのでしょう。

3. 遠くても空で繋がっている感覚

茨城、東京、長崎。物理的には遠く離れていても、同じ空を見上げている。その感覚が、読んでいてじんわりと心に染みてきました。

オンラインという形でしか繋がれない時代。けれどそれでも、人は人と繋がることができる。コロナ禍だからこそ生まれた新しい絆の形が、ここにはあります。

星の光は、遠い光年をかけて届きます。その光のように、人の想いもまた時間と距離を超えて届く。そんな詩的なメッセージが、物語全体に流れているのです。

4. 涙が止まらなかった理由

読みながら、何度も涙がこぼれました。それは悲しいからではなく、彼らの必死さが痛いほど伝わってきたからです。

「不意をついてグッとくる」という感想が多いのも頷けます。派手な展開があるわけではありません。けれど日常の中にある小さな奇跡や、言葉にならない想いが、静かに心を揺さぶってくるのです。

読み終えた後の爽快な余韻も忘れられません。苦しいだけではなく、前を向いて歩き出す希望がある。そのバランスが絶妙で、読後感が本当に良い作品でした。

読書感想文を書くときに押さえたいポイント

『この夏の星を見る』は、読書感想文の題材としても人気があります。自分の経験と重ねやすく、書きやすいテーマが豊富に含まれているからです。

1. 自分のコロナ禍体験と重ねて書く

この作品の最大の強みは、多くの人が経験した時代を描いている点です。自分自身がどんな想いでコロナ禍を過ごしたか、振り返りながら書くと良いでしょう。

中止になった行事、会えなかった友達、変わってしまった日常。具体的なエピソードを挙げることで、感想文に説得力が生まれます。

「当事者だからこそ分かる感情」を言葉にすることが大切です。作品と自分の経験を往復しながら書くと、深みのある文章になるはずです。

2. 心に残ったセリフや場面を選ぶ

読書感想文を書く際は、印象に残った場面を具体的に挙げると良いでしょう。「なぜその場面が心に残ったのか」を掘り下げることで、自分の価値観が見えてきます。

例えば「夏を迎え撃つ」という言葉に心を動かされたなら、その理由を考えてみてください。受け身ではなく能動的に生きることの大切さに気づいたのかもしれません。

引用する際は、前後の文脈も説明すると分かりやすくなります。そのセリフが誰によって、どんな状況で語られたのかを書くことで、読み手に伝わりやすくなるのです。

3. 「失われた時間」について考えたことを書く

この作品の大きなテーマは「失われた時間」です。自分にとって失われた時間とは何か、それをどう受け止めるかを書くと、深い感想文になります。

失われたものは戻ってこない。けれどその経験から何を学んだか、どう成長したか。そこに目を向けることで、前向きな内容になるでしょう。

「無駄だった」と切り捨てるのではなく、「あの時間にも意味があった」と思えるかどうか。その問いに向き合うことが、読書感想文を書く意味でもあるのです。

4. 登場人物の誰に共感したかを明確にする

亜紗、凛久、真宙、円華、小春。複数の視点で描かれるこの作品では、誰に一番共感したかを書くと良いでしょう。

それぞれのキャラクターが異なる事情を抱えています。自分と似た境遇や気持ちを持つキャラクターを見つけることで、作品への理解が深まります。

なぜそのキャラクターに共感したのか、自分との共通点は何かを掘り下げてみてください。そこから自分自身の価値観や悩みが見えてくるはずです。

作品に込められたテーマとメッセージ

辻村深月さんがこの作品を通して伝えたかったことは何でしょうか。表面的なストーリーだけでなく、その奥にあるメッセージを読み解いていきます。

1. 見えないけれど確かにそこにあるもの

映画の音楽を手がけたharuka nakamuraさんが語った言葉が印象的です。「目には見えないけれど、確かにそこにあるもの」への気づき。これが作品の核心にあります。

星の光も、人の想いも、目には見えません。けれど確かに存在しています。コロナ禍で会えなくても、想いは繋がっている。その感覚を、この作品は丁寧に描いています。

形のないものの大切さ。それは普段忘れがちですが、この物語を読むと改めて思い出させられます。見えないからこそ、信じることの強さがあるのです。

2. 光年をかけて届く星の光のような祈り

星の光は、遠い過去から届いています。何光年もかけて、ようやく私たちの目に届く。その時間の重みが、この作品のテーマと重なります。

すぐには届かないかもしれない。けれど諦めずに光を放ち続ける。その姿勢が、希望への祈りなのだと気づかされます。

「失われた日々と向き合う旅」という表現もありました。過去を嘆くのではなく、そこから学び、未来へ向かう。星の光のように、遠くても確実に届く想いがあるのです。

3. 最悪を最高に変える力

「最悪の夏を自らの手で最高の夏に変える」。この言葉に、作品のメッセージが凝縮されています。

与えられた環境を嘆くだけではなく、自分たちで何かを始める。その主体性こそが、人生を変える力になる。若者たちの姿を通して、辻村さんはそう語りかけているように感じます。

困難な状況でも、捉え方次第で意味は変わります。「最悪」を「最高」に変える力は、実は自分の中にある。その気づきが、読者に希望を与えてくれるのです。

コロナ禍という時代を記録した作品として

この小説は、単なる青春物語ではありません。2020年という特殊な時代を生きた人々の記録として、大きな意味を持っています。

1. 当事者にしか書けないリアリティ

コロナ禍を経験した作家だからこそ書けたリアリティがあります。休校、部活の中止、オンライン授業。細かい描写の一つ一つが、あの時代を確かに記録しています。

未来の人がこの時代を知ろうとしたとき、この小説は貴重な資料になるでしょう。統計やニュースでは伝わらない、生きた人間の感情が詰まっているからです。

フィクションでありながら、ノンフィクション以上の真実がここにはあります。物語の力で、時代の空気を封じ込めることに成功しているのです。

2. この時代を生きた若者たちの声

特に若者の声が丁寧に拾われている点が重要です。大人の視点で語られることが多いコロナ禍ですが、この作品は若者自身の言葉で綴られています。

彼らが何を失い、何を感じ、どう立ち向かったのか。その記録は、同世代にとっても、他の世代にとっても貴重なものです。

「コロナ世代」という言葉で一括りにされがちですが、一人一人に異なる物語があります。この作品は、その多様性も丁寧に描いているのです。

3. 未来に残したい青春の記録

何十年後、この時代を振り返ったとき、人々は何を思い出すでしょうか。この作品は、その記憶の一部になるはずです。

辛いだけではなく、そこにあった希望も記録されています。困難な中でも、人は人と繋がろうとし、前を向こうとする。その姿が、未来への希望になります。

青春は一度きりです。失われた時間は戻ってこない。けれどその経験に意味を見出すことはできる。この作品は、そのヒントを与えてくれているのです。

なぜ『この夏の星を見る』を読むべきか

最後に、この作品を読む意味について考えてみます。単なる娯楽を超えた、読む価値がこの小説にはあります。

1. 失われた日々にも意味があったと思える

コロナ禍を経験した人の多くは、「無駄な時間だった」と感じているかもしれません。けれどこの作品を読むと、その見方が変わります。

失われたものは確かにあった。けれどその経験から学んだこともある。そう思えるようになる。それがこの小説の持つ力です。

過去を肯定するのではなく、そこから前を向く。その姿勢を、登場人物たちが教えてくれます。読み終えた後、少し心が軽くなるはずです。

2. 前を向く勇気がもらえる

困難な状況でも、自分にできることはある。そのメッセージが、読者に勇気を与えてくれます。

完璧な解決策はないかもしれない。けれど小さな一歩を踏み出すことはできる。その積み重ねが、人生を変えていく。そんな希望が、この作品には込められています。

辻村さんの優しい視線が、登場人物たちを包んでいます。その温かさが、読者にも伝わってくる。だからこそ、前を向く力が湧いてくるのでしょう。

3. 今この瞬間の大切さに気づける

失われた過去を嘆くのではなく、今ここにあるものを大切にする。そんな視点の転換を、この作品は促してくれます。

星の光が届くのには時間がかかります。けれど確実に届く。同じように、今の行動も未来に繋がっている。その感覚を思い出させてくれるのです。

当たり前の日常がいかに貴重か。人と会えることの喜び。空を見上げる自由。そんな小さな幸せに気づかせてくれる物語です。

おわりに

『この夏の星を見る』は、失われた時間と向き合い、それでも前を向く若者たちの物語でした。コロナ禍という特殊な時代を描きながら、人生における普遍的なテーマに触れている作品です。

辻村深月さんの温かい視線と丁寧な心理描写が、読者の心に深く響きます。読み終えた後、きっとあなたも空を見上げたくなるはずです。今夜、星が見えるといいですね。

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